経営に近いところにあって
会社の方向性を決める大きな手段が広報
広報をやらないと自社の強みに気づけない
1969年、精密板金試作部品会社として長野県で創業。現在は試作専門のビジネスモデルを確立し、日本で唯一の試作屋を目指している クロダ精機株式会社。
「コンビニ工場」をキャッチフレーズに年間350日稼働。高品質な精密試作板金部品を短納期で提供するその技術者たちは、社内独自の技術を身に付けながら業界標準の技能検定にも挑戦し、技術力の向上、加工レベル・品質の安定化に寄与。試作専門を謳う企業ながら厳格な品質管理を要求されるJISQ9100を認証取得し、航空宇宙部品を製造する能力、設計者の意図を汲み取り、納期と品質の両方に対応できる企業です。
今回は、今年4月にネタもと利用歴2年目を迎えた、クロダ精機株式会社 代表取締役社長 佐々木 俊一 様、総務部 部長 鈴木信彦様、総務部 岡田志寿江様にお話を伺いました。
ネタもと導入前の課題や悩み
ネタもとと契約する3年くらい前から、コロナの影響で、社全体に閉塞感が漂っていました。実際、仕事も一番良いときと比べると3割程度落ち込み、外とつながることが難しくなっていました。社員同士での懇親会や社外の方との食事会といった交流も難しかったですし、家族も心配するなかで、社員を外に出すこともできないですから、展示会や都内への出張へも一人で出かける状況でした。展示会は年4回の出展をしていましたが、それではなかなか信頼にはつながらないというのが課題でした。
弊社は、リーマンショックも経験していますが、リーマンショックのときは、まだ動くことができていたけど、コロナは動きようがなく、突破できる方法が見つからなかった。そうした低迷から脱するために何かできることはないかなと、ずっと考えていました。
また、会社の信頼をより強くすることが、事業はもちろん、採用にも必要だと思っていましたが、採用は地元からが多いため、地域からの信頼が必要だというのも課題でした(佐々木様)
ネタもと導入前の「広報PR活動」状況
以前から地元のテレビ局から取材を受けたりすることが年に1、2回あり、反響もそれなりにありましたので、メディアを通じた活動は、面白いなとは思っていました。
ただ、社内に広報体制がなかったため、自分たちから積極的に自社の情報を発信しておらず、ホームページにブログやインタビュー動画を掲載していた程度でした。
また、2019年ごろに、他社の社長さんから「メディアの力はすごい。役立てたほうがいいぞ」と言われ、一部のメディアにつないでもらうことがありました。「これを突破口にしよう」など、大それたことを考えていたわけではなかったのですが、広報活動はやったことがないし、とりあえず広告からやってみようかと考え始めました(佐々木様)
私の場合は、「広報」という言葉は聞いたことはあるけど、どういうことをやるのか、馴染みがまったくありませんでした。結局、何かよくわからないまま身構えてもいない状態で、本当に完全な0からのスタートでした(岡田様)
広報PR活動を重視するに至った理由
自分たちで番組を作ったり、ブログを書いたりし、ホームページにアップするなど自社の良さはいくらでもPRできますが、 それはあくまで自分たちが言っているだけのことにすぎないので、信頼されるには、第三者に取り上げてもらう必要があるなと思っていました。
弊社はBtoB事業で、一般向けに商品を販売している店舗と違い、SNSに「いいね」がついたり拡散されたりするような業態でもありません。 そこで、影響力のあるメディアであれば、それだけ自社への評価や信頼感が上がると考え、企業のブランディングのためにCMや広告出稿などには取り組んでいました。
ですが、そこまで費用をかけるわけにもいきませんでした。ネタもとと出会う前は、広報活動についてあまり考えていなかったのですが、もっと自社のいいところを知ってもらうために、広報力をつけていこうかなというところから活動をスタートさせました(佐々木様)
ネタもとを選んだ理由
これまでも、PRや広告の会社からいろいろな紹介や売り込み、「メディアとおつなぎしますよ」といった話を持ちかけられることはありました。いまでも、そういうお声がけは受けます。
でも、それはいずれも「PRの代行をします」という内容なんですよね。一方、ネタもとさんからの提案は、目指すゴールが「広報の自走化」だということでした。
そのあたりのことを、ネタもとの本村社長からもオンライン会議で直に伺い、「代行ではなく、自分たちができるようになったら面白いな」と感じました。
PR会社に代行してもらって、すべてお任せして終了、というのではなく、 最終的には自分たちの社内に広報のスキルが残るかたちのほうがいいんじゃないかなと。そこがネタもとさんを選んだ一番の決め手でしたね(佐々木様)
広報PR活動で取り組んだこと・工夫したこと
工夫というほど特別なことはないですが、担当の2人は広報専任ではなく、広報活動も初めてです。総務の仕事もあるので、まずは面白いと思ってほしい、と思い、結果を求めすぎないように意識していました(佐々木様)
僕は飛び込み営業の仕事などもやったことがありましたが、岡田はそういう経験はないですから「広報は、結果が出るか出ないか、わからない仕事。あまり期待したりガクッときちゃいけないよ」みたいなことは伝えました。
たぶん相当苦戦するだろうなっていうのが僕の予想でしたが、実際は広報トレーナーの言うことをしっかりこなしてくれ、すべてが上手く回っていきました(笑)。最初に地元メディアの人が興味を持ってくれ、そういう意味で僕らは、考えられないぐらいの時間や行程をショートカットして導いてもらってきたんじゃないかなと感じています。
岡田は私みたいに悲観的じゃないので、割と明るくいつもコツコツやってくれて、心の中では葛藤もあるかもしれないですが、出だしから実績を作り活躍してくれました(鈴木様)
報道資料を作るうえで、写真を撮ったり、記事書いたりするわけですが、普段は地方で工場に勤めている社員たちなので、「私なんかでいいんですか」というような感じで、始めはあまり出たがらない様子でした。しかし、話してみると、皆が協力してくれました。
時間的には、やはり総務の仕事がメインなので、どうしてもやっつけ仕事になりそうな時もあり、今でもまだ総務と広報のバランスが難しいところはあります。最初のうちは広報トレーナーに作ったものを出して、それを添削してもらって、とにかく指摘された通りに修正して出すことの繰り返しでした。
ただ、やっつけ仕事ではいいものは書けないと思い、これからはさらに工夫したいと思っています(岡田様)
「メディアとの接点」における成果
広報活動を始めてから地元メディアの取材を受けることが増えたので、記者の知り合いが増えてきました。地元の企業説明会にメディアが来ていることがありますが、「お世話になります」と挨拶すると、いきなりそこから質問が始まることもありました。それまでには、なかったことです。
実際に、その日の記事の総括部分には、私が話したことも含め、まとめてくださっていました。取材を通じて知り合った記者さんたちと外でも会ってお声がけできるような関係になれたのは良かったなと思います。
振り返ると、最初に記者さんが会社に来てくれたときは、ただただ「すごいな」と驚いていたのですが、お話するなかで、自分でも徐々に言語化できるようになった部分もありました。「こういう感じで聞かれたことが、このような記事になるんだ」ということが、少しだけわかってきたところもあります(鈴木様)
私はプレスリリースやニュースレターを作成したら、メディアリストにあるすべての記者さんたちに送っています。全社に送っても、1社反応してくれればいいかな、というくらいですが、とにかく知ってもらいたいという思いで送っています。
その中で、反応があると嬉しいですし、結果として、今まで何社か取材をしていただきましたが、比較的同じメディアさんからの取材が続いた後、別のメディアさんから取材依頼がきたときには、「地道な活動が実ったな」「これで、またつながりが持てるな」と感じますし、とてもありがたいです(岡田様)
「PRのノウハウ」における成果
広報トレーナーからは、報道資料のタイトルや、キャッチーなフレーズ作りを学びました。その他、私が中学生向けに行った「職場体験」のプレスリリースを作ろうとしていたとき、広報トレーナーが1つの切り口として「中高生が、今なりたい職業」というアンケートに基づくランキング情報を送ってきてくださったんです。
ちょうどその時、その職場体験とは別に、高校生向けの事業説明会や求人票作成も担当していて、「高校生に刺さるような職種名の記載をどうしようか」と悩んでいたんです。トレーナーさんから送ってもらった「なりたい職業ランキング」のなかに「機械エンジニア」というのが入っていたのを見て、「うちの募集職種名は『試作エンジニア』にしよう!」と決めました。広報トレーナーから、リリース作成のために提案してもらった情報が、取りかかっていた採用活動にも役立ったという経験でした。
ネタもとの「メディア交流会」は参加するまで、どうなるのか心配でした。他社の広報の方が順番を待っている中で、自社のことを話すというのは、ちょっと困ったシチュエーションだな、3分なんて絶対使いきれないと思っていたのですが、やってみたら3分できっちり伝えたいことを伝えることができました。 それまでに、会社の情報を整理しておいたことが役に立ったと思います。
また、弊社のビジネスモデル自体が少し変わっていて、正確に想像するのが難しいので、メディアの方から少しピントのずれた質問がくることもあり、いかに平易な言葉でわかりやすく説明するかが大切だと知りました。今はその伝え方をもう少し身につけていかないとと思っています(鈴木様)
「ヒト(広報担当)育成」における成果
「PR活動診断」の点数は、17.5点から半年の時点で47.5点にあがりました。特に上がったのは「情報発信力」です。広報は外向けの活動はもちろんですが、実は社員向けの発信という意味もあると思っています。社員に対して訴えている姿を見た社員たちが、そのうち「自分も参加してみよう」となっていったらいいなと思って、今は見ています。やはり「この会社に行ってよかったな」と思ってもらいたい。それが一番ですよね。
与えられた仕事をこなして1日が終わり給料をもらうだけじゃなく、社内に何か楽しみや面白さがあって、ますます仕事も楽しい、となっていけたらいいなと思います。広報もその1つのきっかけになれば嬉しいですね。
実際にメディアに取り上げてもらうことがあると、社員皆が、心の中では嬉しいのではないでしょうか。家族が見たら「うちのお父さんの会社が取り上げられたよ」と自慢できると思うのです。最初はちょっと照れくさいとこあるかもしれませんが(佐々木様)
「いい肉の日」に、社内でランチに焼肉を提供したのときのテレビ取材は、リアルタイムでテレビを見ていてくれた知人が、スマホで写真を撮って「出てるじゃん」と送ってくれたり、久しぶりに会った方が「そういえば出てたね」と半年ぐらい前のことなのに覚えてくださっていたり。取り上げてもらえると、反応はすごくありますね。YouTubeで検索し3回は家族にも見せました(岡田様)
広報担当の2人の「見る目」が養われてきていると思います。具体的には「こういう見せ方をすれば、こう興味を持ってもらえるんだ」ということを、見て考えるという力です。たぶん以前はそんなことを考えたことはなかったと思います。
今では「こういう発信の仕方がいいね」っていうことを無意識に、仕事としてではなくてでも、考えるようになっているんじゃないかなと思います。
例えば、今年の夏に、「夏の暑さ対策でアイスを食べる」という企画があります。私自身はアイスを食べないので、まったくその発想はありませんでした。私が1人でやったら絶対に出てこないアイデアです。皆の意見や声を聞くといろいろなネタが出てくる、すごいなと思いました(佐々木様)
ネタもと独自の「PR活動診断」
ネタもとでは、定期的に独自の「PR活動診断」を実施し、お客様の「自走化状況」を可視化・数値化することで、成果が見えづらい広報活動の「効果検証」を可能にし、自走化実現までの道のりをしっかりとサポートしています。
これまでに掲載された主な媒体名
・信濃毎日新聞
・南信州新聞
・長野朝日放送
・飯田経済新聞
・Yahoo!ニュース
掲載されるために工夫したこと
プレスリリースでのキャッチーなワード選びは意識しています。2023年11月29日、「いい肉の日」に合わせ、長野県産の牛肉をつかって社内で「ランチに焼肉」をふるまう企画をしたんです。昼休みを延長して。この企画は、きっと夕方のニュースに向いているんじゃないかと一応の予想は立てて、テレビ局中心に情報提供しました。その結果、長野朝日放送さんが番組で取り上げてくれました。
「いい肉の日」の企画は、ネタもとの広報トレーナーとの定例ミーティングの中で、急遽決まったものです。そのときすでに、11月29日まで1週間あるか、ないかぐらいだったので、しっかりしたプレスリリースを作成している余裕はありませんでした。なので、本当に単純に「『いい肉の日』に、こういう企画をやります」ということだけを、対象とするメディア3、4社に絞ってお伝えしました(岡田様)
この地域は焼肉への関心が高いんです。すぐ隣の飯田市は焼肉の街で、11月29日を「飯田焼肉の日」に制定しています。そのあたりもポイントでしたね(佐々木様)
どのような企業に「ネタもと」を勧めたいか
PRはどんな企業も、皆やればいいと思うんですけど、 特に製造業、建設業などは、広報やっていない企業が多いのではないでしょうか。
しかし、広報をやらないと自分たちの会社のいいところに気づけないんですよね。情報を発信するとなれば、自分たちの会社のいいところについて考えて、わかってきます。いきなり広報ができなくても、そういう考え方をするだけでも、全く違うと思います。
以前、長野県内企業の集まりで、ネタもとを活用した広報活動について話したこともありますが、費用面のこともあるので、そこに価値を見出せるかどうかで受け止め方は変わると思います。
ただ、広報PR活動でいい結果が出ているということ、PRはとても大事だ、ということはお伝えしたいです。 あとは、やはりネタもとでも言われているように、「体制づくり」が大事だと思います。社長さんが「面白そうだからやってみよう」と広報活動を始めても、体制ができていないと、おそらく何も進まないと思います。 そこをしっかり理解し、納得した上で始めてもらうのがいいと思います(佐々木様)
今後のさらなる目標
「日本一の試作屋」という、わかりやすいキャッチフレーズを社長が打ち出しているのですが、やはりそこへ向かっていきたいですね。
今期の総務の目標にも入れたのですが、「日本一の試作屋」に、多くの人が関与して実現するかたちになればと思っています。他人事で「社長が日本一の試作屋にしてくれたぞ」ということではなく。社員が関わってアイデアを出し合っていくようになっていけたらと思っています。
私自身は、競合他社などを調べた際、うちは本当にオンリーワンの会社だな、うちみたいな会社ってどこにもないな、とわかりました。
ですので、あとは社員たち皆ながそういうことにどれだけ気づいて、どれだけこの会社の価値を見出し愛着を持てるか、かなと思っています。今はまず「日本一の試作屋」という1つのビジョンに、社員全員で向かって行っている段階です(鈴木様)
日本で「ここにしかない価値のある会社」を目指し、お客さまに良いものを届け、お客さまの満足が自分たちの満足、という側面はもちろんありますが、そこだけではまだ足りない部分があるのかもしれないなと思っています。それが地域貢献です。
製造業は普段、人と接することが少ないので、普通に仕事をやっているだけだと地域に対してできることをあまり意識できません。しかし、広報という「ネタ作り」をきっかけに地域に貢献していけるのではないかと思っています。
例えば、弊社がメディアに取り上げてもらうことで、地域の人たちが「そんなに大きくない会社でもこういうことができるんだ」とを知ってくれたら、いい意味で「真似してみよう、取り組んでみよう」と思ってくれる人が出てくると思うのです。就職活動をする高校生や大学生の親御さんたちが、お子さんたちに「地元には働くところがないから」と言っていると聞いたことがあります。なので、皆外へ出てしまうのですが、そうじゃなく、いい会社は地元にもきっといっぱいある、情報を発信していないから知られていないだけ、だなんです。
だから、自分たちだけでなく、地域の他の企業さんも、広報での情報発信を通じて自社のことをたくさん知ってもらって、それが地域の活性化につながっていったらと思います。
私は広報を経営の柱の1つだと思っています。そうでなければ広報をやる意味がない。経営に近いところにあって、会社の方向性を決める大きな手段、それが広報だと考えています(佐々木様)
コロナの影響で会社全体に閉塞感が漂い事業が低迷。採用面でも地域からの信頼が必要という課題があり、将来を見据えて「広報の自走化」に舵を切った、佐々木社長。自走化という目標のゴールは、1年と2カ月という短期間ながら、着実に手が届くところまできているようです。
「広報をやらないと、自分たちの会社のいいところに気づけない。情報を発信するとなれば自分たちの会社のいいところについて考えわかってくる」という佐々木社長の言葉は、まさに広報PR活動を行うことの「本質」を射抜いています。
広報PR活動を通し、その重要性を体感できたからこそ、さらにその先の未来、広報PR活動を通した「地域貢献」という目標が見えてきたのではないでしょうか。
「広報を経営の柱の1つ。経営に近いところにあり、会社の方向性を決める大きな手段、それが広報」
佐々木社長のこの考えが、一人でも多くの経営者の方に伝わることを私たちも心から願いっています。
お忙しい中、快く取材に応じてくださった、佐々木様、鈴木様、岡田様、貴重なお話を本当にありがとうございました。
参考:クロダ精機株式会社様 組合員数:39名(2024年7月現在)