ネタもとサービスを「漫画」でわかりやすく紹介

マイナス64億円からプラス21億円へ

マイナス64億円からプラス21億円へ

マイナス64億円からプラス21億円へ
1年で黒字体質に転換しV字回復を実現した
日系部品メーカーの外国人敏腕社長

上方修正を重ね2,000億円規模へと成長を遂げ、グローバル戦略を推し進める半導体市場向け日系部品メーカー、株式会社フェローテックホールディングス

その陣頭指揮を執るのは、異色の経歴をもつ外国人社長だ。今回は、株式会社フェローテックホールディングス 代表取締役社長兼グループCEO 賀 賢漢(が・けんかん)氏に注目してみた。

代表取締役社長兼グループCEO 賀 賢漢(が・けんかん)様 

先進国で学ぶため来日。大学講師からビジネスの世界へ

来日前は、上海財経大学 財政学部の助講師として教鞭を取っていた賀代表。上海財経大学はその名が示すとおり、主に経済、金融、商科に強い中国国内有数の大学だが、その頃(1980年代後半)の中国はまだ発展途上にあった。

他方、米国や日本は先進国で経済も発展していることから、「大学院で学ぶべきことが多い」と考えた賀代表は海外留学を決意。第一候補は米国だったが渡米手続きが容易ではない中、日本語学校の生徒を募集する説明会が上海で行われたことから、日本へ行くことを決めたという。

日本へ来てからは、中華レストランでアルバイトをしながら日本語の語学学校に通い、寝る時間を惜しんで日本語の勉強。約3か月で語学力を身につけ、日本大学大学院経済学研究科に進んだ。

大学院修了後、賀代表はそのまま日本の大学に残り教授を目指そうとしたが、中国とは異なり、日本で教授になるには長い年月が必要になると聞き、中国よりも経済的にも発展している日本企業でビジネスの経験を積む方向へとキャリアチェンジすることを選んだ。

ゼロスタートの日本企業で文化を創りたい

日本企業に就職するにあたっては、「中国と関わりがある企業、ゼロからスタートした企業で働きたい」と考えたという。ゼロスタートの企業を希望したのは、自身の文化を創れると考えたからだ。

3社から内定を得た中で、フェローテックは最も給料が安く小規模だったのだが、当時の社長だった山村章(現在は名誉会長)と最終面接をした際、山村社長には14年間の留学を含めたアメリカでの経験があり、たった1人異国の地に赴き、そこで経験した言葉の壁をはじめ、様々な苦労に共感し、入社を決めた。

また1989年創業という点でも、ゼロスタートの企業で働きたいという賀代表の希望に沿っていたという。面接で山村社長は、自身が留学した当時の米国はハイテク産業が進んでおり、今後ハイテク市場は日本に移るという予測し、中国の生産拠点の事業成長に君の力を貸してほしい、と賀代表に伝えた。この会社に入社すれば、ある程度の裁量と権限を与えられ仕事に取り組めることに使命感とやりがいを感じ、それが入社の決め手となった。当時、賀代表は36歳だった。

マイナス64億円からプラス21億円へ。1年で黒字体質に転換しV字回復を実現

入社後、賀代表は日本のフェローテックに席を置きながら、中国事業の総責任者および日本本社の事業統括責任者を歴任し、会社の成長に大きく貢献した。日系企業を中心にM&Aを行い、日本企業をマザー工場とし中国に大きな量産拠点を創り、そこで事業を拡大しシェアをアップするという施策を取り、会社の規模を拡大していった。

中国の事業を拡大していくのはフェローテックの成長と直結していたため、賀代表は中国全体と日本の事業責任者の兼任から、やがて全世界の営業責任者としてのポジションを確立していく。

新規事業の立ち上げやM&Aにより規模を拡大するなど、順調に事業を拡大していった賀代表だが、その間、苦戦した時期もあったという。中でも最大のピンチは、2012年から2013年にかけて当時主力事業だった太陽電池が、世界各国政府の補助金引き下げにより大きな需要減となり、経営が急激に悪化したことだ。

当時は太陽電池向けシリコンウエーハ、セル、および単結晶インゴット引き上げ装置等の事業拡大に取り組んでいたため、材料や設備の減損処理などで12/3月期から13/3月期の1年間の連結経営成績が大きく悪化。この1年で売上高は600億円から384億円の36%減、営業利益は41億円からマイナス36億円、当期純利益は17億円からマイナス64億円と赤字に転落した。

その当時の賀代表は、副社長だったが、代表である山村は、賀に事業をほぼ一任しているような状況だった。そこで賀代表は、2013年に太陽電池事業から半導体等装置関連事業に経営資源をシフトし、「人材」「設備・技術」「資金」を集中投下した事業戦略にシフトさせた。

それまで主力事業であった太陽電池事業については事業縮小を決定し、京橋にあった自社ビルを売却するなど、固定資産の減損処理を進めた。リストラを決行したのは苦渋の決断だった。

しかし、社員にとっても会社の存続が第一優先であると考え、将来の収益体質確保のためにはやむを得ない決断だと考えた。その代わりに、半導体関連事業の規模拡大を目指し、人員は太陽電池事業からシフトを行った。

その結果、半導体等装置関連事業の成長に素早くギアチェンジをし、太陽電池事業を縮小し経営状況を改善した事で、13/3月期から16/3期の3年間で売上高は384億円から694億円と80%増。営業利益はマイナス36億円から40億円へ。当期純利益はマイナス64億円から21億円へといずれも安定的な黒字体質に転換しV字回復を実現した。

その後、中国国内でハイテク分野を国内で創る動きが出たのだが、2019年7月に上海で新興の「科創板(スターマーケット)」での取引が開始され、政府系・民間系ファンドによる資金面のサポートがあり、また半導体分野に関するプロジェクトもサポートを受けるという追い風の中、賀は持ち前の行動力と交渉力で各ファンドに直に交渉していった。

結果、フェローテックの中国グループ企業4社は、第三者割当増資で複数のファンドから大規模な資金調達を実現し、この資金を原資に大規模な設備投資を行うことで会社の急成長を実現した。

賀代表と山村前社長との間には、強い信頼関係があり、今後は中国におけるハイテク産業の成長が自社の成長に直結する状況であることから、中国子会社を束ねる総責任者であり且つ全世界のグループ企業の事業統括責任者である賀代表が、山村前社長の後任として適任である、という判断から2020年7月に社長に就任した。

氏の社長就任により資金調達戦略が一変

賀代表が社長に就任した2020年の7月、当時の株価は600円台だったが、現在の株価は3000円台に上昇している。これは賀代表が企業価値を上げるための施策を行ってきたからだ。具体的には、半導体ウェ―ハという製品があり、このウェーハを加工していくとICという半導体になるのだが、設備投資に非常に資金がかかる。この設備投資のための資金調達を2018~20年の3年間に銀行借り入れを中心に行った。

これらは、日本の親会社が借り入れをし、当時の子会社に貸し付けをするという戦略で、そうすると親会社は有利子負債という借金が膨らんでいく形となり、財務体質を悪化させていく。そこで賀代表は、2000年7月に社長に就任し、2カ月後の9月に中国の100%子会社の60%を売却した。

そうなると、いわゆる政府系や民間系ファンドは、「今利益が出ていなくても将来株が上がるだろう」と予測を立てて投資を行う。そういった状況の中、株を購入したいという投資家が多数出てきたため、60%を売却することができフェローテック本社に現金が300億円入った。そのキャッシュを有利子負債の返済に充てたことにより、一気に財務体質が改善された。

投資家にとっては当然IPOを目指している企業は魅力的に映る。それ以外に調査をしていくとフェローテックの中国でのグループ企業の数社が上場を目指しているということが分かるため、有利に働く。こうした財務戦略により、賀が社長に就任してから資金調達の戦略が変わった。

今までは日本での銀行借り入れがメインであったため、日本での銀行借り入れの場合は、融資の問題が出てくるが、このように中国内で増資をして、第三者割り当て増資を行うということは、IPOを目指す企業に対して、政府系ファンドや民間系ファンドから複数の出資を募ることができるため、資金をスピーディに調達することが可能になる。

それにより設備投資を素早くできるため、競合他社と比較して生産能力の増強をスピーディーに行うことができる。半導体の業界自体は2000年のコロナ禍においては巣ごもり需要が起きたため、デジタル需要が加速し、半導体の設備投資需要をはじめ半導体の成長がこの3年間非常に高く、そこに対してうまくはまっていったので、複数の事業が非常に大規模な設備投資をして売り上げと利益が上がり、業績拡大の歯車が非常に嚙み合う形となった。

売上高は、過去最高の1,338億円を計上

日本の親会社の財務体質を見ると、中国での増資を実施のため日本の親会社の借入金が増大しているわけではない。そのため良好な財務体質が維持できている。この点は賀が社長に就任してからの大きな変化、改善だ。賀が社長に就任してからのフェローテックは半導体関連に特化し、併せて電子デバイスのパワーデバイス基板やサーモモジュールも強化し、短期間で大きな売上伸長を実現している。

2022年3月期において当社は、半導体マテリアル製品、金属加工、パワー半導体基板、および温調デバイスであるサーモモジュールの好調が寄与し、売上高は過去最高の1,338億円を計上した。

とくにフェローテックの事業の中で急成長が著しい半導体マテリアルの「シリコンパーツ」、パワー半導体メーカーに供給する「パワー半導体基板」は、量産を開始してから数年間は売上伸長や採算の面でも伸び悩んだものの、シリコンパーツは競合するSiCという材質の部材が、市場においてSiCの供給がひっ迫している中、賀代表が持ち前の素早い行動による資金調達と設備投資でシリコンパーツの生産能力を引き上げたことで、競合のSiC部材が顧客に納期対応できない状況の中、供給を増やし、シェアアップを実現した。

パワー半導体基板は、当初の廉価版の材質製品以外に、高付加価値材質製品への参入(製品ラインアップの拡充)を行い、これがEV(電気自動車)の需要成長と相まって、同社の売上・利益拡大に繋がっている。

フェローテック賀代表の将来の展望

フェローテックは、2023年3月期は業績予想の上方修正を2回行い、半導体等装置関連、電子デバイスとも業績伸長で創業以来過去最高値を更新する見通しで、2024年3月期以降も企業成長を目指している。

日本政府の熱心な誘致政策もあり、熊本に世界最大の台湾系半導体受託製造(ファウンドリー)の企業が生産拠点を構築する事が起爆剤となり、九州を中心に半導体メーカー、半導体製造装置メーカーが中長期での生産能力増強を行う環境にある。

部材メーカーの当社にもこの日本国内での需要増は大きなチャンスであることから、熊本新拠点設立、石川工場の増設など、積極的な投資を行い、改めて日本国内での開発・製造を強化する方針を打ち出した。

半導体は、全世界的にどの分野でも量が必要になってきている。かつて日本は半導体のシェアが高い時代があった。賀代表は、半導体市場を中心とした長期的な市場成長に対応し、既存事業の成長投資を継続し、効果的シナジーに繋がる、M&Aなども駆使しながらその実現に取り組んでいこうと考えている。

また、グローバル戦略の中で、日本を半導体の供給基地としての「日本回帰」を重要な経営方針として表明している。

注目の社長プロフィール

株式会社フェローテックホールディングス 代表取締役社長兼グループCEO
賀 賢漢(が・けんかん)
1957年10月14日生まれ。中国上海市出身。上海財経大学卒業後、同大財政学部助講師
1993年に日本大学大学院経済学研究科修了、同年フェローテックホールディングス入社。
2001年に取締役、2004年に常務取締役、2006年に事業統括担当常務取締役、2009年に取締役兼常務執行役員事業統括担当。2011年代表取締役副社長兼執行役員事業統括担当。2020年7月代表取締役社長兼グループCEO


注目の社長カテゴリの最新記事