販促や広告は、散々やって失敗したことも多かった。
トライしたことがない「広報」に初めて挑戦し、
広報活動だから得られる成果を実感。
1926年、当時映画界のカリスマ的人物だった佐生 正三郎 氏から始まった、衣料洗剤の製造販売・クリーニング店を営む 株式会社ハッシュの歴史。
現代表の曽祖父にあたる佐生氏が、最後に勤めた映画会社「日米映画株式会社」から名をとって、1968年品川区大井町に「日米クリーニング」を設立。子供の頃から家業のクリーニングを見て育ち、「自分も大人になったらクリーニング屋になるのだろう」と、自動車の免許を取って白金や高輪を集配に廻ったと語るのは、株式会社ハッシュ 代表取締役社長である、浅川 ふみ氏。
今回は、創業61年を迎え、創業以来初めて「広報PR活動」を経営戦略として取り入れたという、株式会社ハッシュ 代表取締役社長 浅川 ふみ様に、この半年間の取り組みや、その成果について詳しくお話を伺いました。
当時の経営課題や悩み
広報活動を始める前は、主に営業活動と広告出稿を行っていましたが、営業活動でも、広告出稿でも商品の良さが伝わらず、売上が伸びないことが悩みでした。
営業活動は代表の私自身が、1件1件、販売店の方に直接、商品を紹介していました。その際「商品はこれだけですか?」と言われることや、「そのような商品は、他にもいっぱいあるから大丈夫」と断られることが大半で、「このままでは、行き詰まるときが来るのかもしれない」と感じていました。しかし、他に良い方法があるわけではなく、一時期、営業スタッフを増やそうと、4年間で7名採用したこともありましたが、結果は全員辞めてしまうことになってしまったのです。
皆、「商品をどうやって広げていくか」と努力してくれましたが、私にしかできない、商品の思いを伝える営業方法しかなかったので、社員も難しかったと思います。
「ネタもと」導入前の広報PR活動状況
広報活動はもちろんのこと、積極的な情報発信はしていませんでした。社員数も8名で、それぞれの役割がありましたが、私が広報をやることは向いていないと思っていたこともあり、新たに担当となる社員とともに活動を開始しました。
私が向いていないと思ったのは、「ハッシュ」は自分の分身みたいな気持ちがあり「この商品は素晴らしい!」という思いが先走り、客観的な事実を伝えることができないことが理由でした。
広報は、事実を伝えていくことが必要なため、客観的に物事を見て意見をくれる、分析する力がある社員が良いと思い、総務担当と、SNS担当の2名の社員と活動を進めることにしました。ただし、「広報」と聞くと、テレビで見るような表舞台に積極的に出る広報担当者のイメージを持って、尻込みするのではと心配に思っていました。
そのため、担当の2人には「前に出ることは全て私がやるので、そこは心配しないで。何もないところからスタートするわけではなく『ネタもと』というシステムを使って活動できるので、難しく考えず、ゆっくり時間をかけてでもいいから、一緒に形にしていこう」という話をしてスタートしました。
広報PRに力を入れた理由
新しく商品を開発したことをきっかけに、広報に力を入れることを決めました。実は、広報PRは5年前から興味がありました。「ネタもと」が開催していたセミナーで、本村社長の話を聞いたことがきっかけです。
広報はとても魅力的な取り組みだなとは思いましたが、その時は「うちの会社は、商品も少ないし、規模的にもまだまだ届かないだろうな」とも思っていました。でも、セミナーの中で「どんなに良いものを作っていても、知ってもらわなければ存在しないのと同じ」とおっしゃっていたことに共感し、それが5年間ずっと頭に残っていました。
広報を始めるとなると、「会社の立ち位置をどうしたらいいか」ということが1つの課題でしたが、「今後、ハッシュは洗剤メーカーという立ち位置になっていけば良い。私自身が洗濯というものをよく知ている人間だということを伝えていこう」と考えました。
また、会社を知ってもらうという点でも、ただ商品を伝えるだけではなく、会社の価値、他と何が違うのか差別化も必要でした。これについても会社の立ち位置と同様に、私の知識や経験をどう活かすかだと考えました。
これらが5年間考えた末に広報活動のスタートを決意した瞬間でした。
「ネタもと」を選んだ理由
広報をやったことがないため、しっかりとサポートしてくれることが選んだ理由として、とても大きかったと思います。
未経験の担当者と一緒に活動するので、ネタもとサイトにあるノウハウ動画や、メディアの方が情報をリサーチする「リクエスト」機能など、未経験者でも活動しやすいコンテンツがあることが、決め手となりました。広報に初めて予算を使うことにしましたが、他にも販促や展示会、広告など予算の使い道はいろいろ考えられました。しかし「今まで散々やって失敗したことも多かったな」とも思いました。
例えば、広告でも予算には限りがありますが、1回の小さい枠の掲載でも100万円を超えることもありました。「それで、何人の人に知ってもらえるのだろうか・・・」とも、思いました。販促や広告では、結局また「買ってよ、買ってよ」という伝え方になると思った時に、まだトライしたことがない「広報」というものに挑戦してみたいと思ったのです。それでダメだったとしても、今までにトライした失敗と変わりないと思い、決断しました。
広報PR活動で取り組んだこと・工夫したこと
何よりも、社員にやる気を持って、気持ちよく活動してほしいという思いがありましたので、「どれだけ時間がかかってもいいから、一緒にやっていこう」と伝えたことは鮮明に覚えています。
担当者は今までの業務に加え、会社でも前例のない「広報活動」が加わったため、近くで見ていて「忙しそうだな、大変そうだな」と感じたこともありました。あるときは、プレスリリースも1日に3行ぐらいしか進んでいない日もあったと思います。
また、一度私が資料に直接手を加えたことがありましたが、全部直したり、細かいところに口を出しすぎたりするとプレッシャーにもなり、やる気を削いでしまうと感じました。それからは、任せると決めたところは、なるべく関わらないように意識した時期もありました。
そして、私自身は広報に仕事全体の2割の時間を使うようにしました。同時に、営業に費やす時間を今までの2割に減らしました。もちろん最初は今までやってきたことを変えるので「大丈夫だろうか」と思う気持ちはありました。
しかし、やろうと思うこと全てができるわけではないので、一旦は広報活動をできるところまでやっていこうと決めました。勇気はいりましたが、活動を続けるうちに、営業の第一線にあるのが広報だと実感するようになりました。
メディアとの接点における成果
ネタもと活用前は、メディアに向けての情報発信はしていませんでした。年間で2~3件の取材を受けることはあり、取材を受けたことがあるメディアの中の3メディアの方には展示会のご案内などを続けている状況でした。
ネタもとを利用しはじめて約半年たった今は、100名を超えるメディアの方に情報が届けられるメディアリストが手元に蓄えられました。メディアとの接点を得られた要因としては、「メディア交流会」に参加したことです。
最初は直接、話をすることにかなり緊張しました。自分から交流することは初めてだったので、「弊社はこういった会社で社員が何名いて…」と、1から10まで説明したり、売り込みや宣伝のようになってしまいがちでしたが、いろいろなメディアの方との交流を重ねるうちに、「メディアの方の話を聞く場にしよう」と思えことが、交流会に限らず、メディアの方とのコミュニケーションの取り方が変わる機会になりました。メディアの方には商品を売り込むような、一方的な商品の説明はいらないし、会社のことも気にしていないこともある。それよりも社会性とか、今起きている事象にどのように関係するのか、話題性があるかなどが大切です。その視点で伝えるようにしたら、メディアの方が、メディアが求めることと、私たちが伝えたいことの接点を見つけ、どのようなストーリーであれば社会に紹介できるか一緒に考えてくださることも増えました。
また、メディアの方は忙しく、あまり長く話を聞いてもらえないと思っていましたが、思っていた以上に商品のことはしっかり聞いてくれました。当然、メディアの方も良い情報を紹介されることに真剣であるため、こちらも真剣にお伝えしたらよいと思うようになりました。今は100件のメディアリストがありますが、自分たちだけでは作れなかったと思います。最初はプレスリリースを直接送ってよいのかも知らなかった状態から、PRコンサルタントに具体的にアドバイスをもらいながらできることを1つひとつ増やしていき、今では直接、情報を届けられるようになってきています。
PRのノウハウにおける成果
PRのノウハウにおいても、実際に、何をやればいいかわからない、何も知らない状態からスタートしました。今でも社員と「ネタもとのシステムがあったからここまでできたよね。自分たちの独学ではまず無理だったよね」と半年前を思い出して話すことがあります。
最初の段階では、特に「ネタもとサイト」のプログラムの1つ「動画配信」で、広報の基礎知識を学べたことが大きかったです。活動開始から3カ月で約40本ある基礎編を全て視聴しました。インプットできたことで、PRコンサルタントからのアドバイスも理解できて、活動を進めることができました。経験がない私たちだけで考えても、自分たちの視点の範囲でしかアイデアは出てきません。客観的な視点も含め、PRコンサルタントとのミーティングでは、自社だけじゃない、外部の視点があることでの気づきが多く、毎回1ページでは収まらない量のメモを取っています。
活動を進める中で、広報の「事実を伝えていくこと、客観的な第三者の目線で情報発信すること」の大切さを学びました。
「こんな良い商品なんです」ということは、私たちが伝えることではなく、聞いた人が判断することだという認識のもとに、メディアの方に情報をお伝えしています。
そして、ちゃんと伝わるとメディアの方が「こんな役に立つ、商品があるんです」と紹介してくれる。実は営業も同じだと感じていて、商品についての事実をしっかり伝えると「ハッシュさん、そんな商品あるなら売ってよ」と言ってもらえることが増えてきました。また、月1回開催される経営者向けセミナー、交流会には、可能な限り出席しました。経営者交流会では同じテーブルになった経営者の方と情報交換しましたが、広報PRという同じ方向を見ている経営者同士なので、参考にできる情報を教えていただくことも多かったです。
ヒト(広報担当)の育成における成果
まず、まったくプレスリリースを書いたことがなく、箇条書きからスタートしましたが、この半年で文章力が上がり、伝える力が身につきました。
広報担当者は、営業の経験はなかったのですが、初めてコミュニケーションをとるメディアにメールを送ることや、電話の対応もできるようになっています。最近では、お問い合せのお電話をいただき二言三言やりとりすると、取材での問い合わせか、広告提案のご連絡かが、分かるようにもなりました。
それと、プレスリリースを初めての人でも分かるよう客観的な視点で情報をまとめることを続けているうちに、社員が会社のことを深く理解できるようになったと感じています。担当の2人もお互いで客観的な表現になっているかをチェックし合い、自分が担当だという責任感を持って活動していて、私から見ても自信がついたと感じます。広報をスタートした半年前は、私しか知らないという会社の情報が多すぎたと思います。その情報を文章化していくことによって、広報担当者が会社のことを発信できるようになりました。社内全体にも良い影響があり、以前よりみんなで同じ方向を向けるようになってきたと思います。
また、経営者向けメディアセミナーや、担当者が参加できるプログラムなど、参加した人がみんなに共有するなど、社員同士の情報交換も活発になりました。オフィス内でもコミュニケーションをすぐに取れる位置で仕事をしているため、特に私と広報との会話が増えました。最近では、私が気づく前にホームページに最新情報がアップされていたり、SNSで情報が発信されていたり、状況を聞くとすぐに返答が返ってくるなど、任せた分野をちゃんと担当してくれています。
ネタもとから提供してもらった広報活動のレベルがチェックできる110問の「PR活動診断」の結果も、スタート時点では11点でしたが、4カ月後に33点になり、半年後の今は50点に達しています。経営としても、今までは商品が売れることが会社の成長だと思っていましたが、広報活動を開始してからは「会社の成長が商品を支えてくれる」と、今までと逆の発想になりました。
商品を売り込むのではなく、会社の思いを発信し活動を充実させていくことが、商品を買ってもらえることにつながると実感しています。
掲載された主な媒体名
・雑誌「Begin」
・ラジオ 東京FM「ONE MORNING」
・新聞「日経MJ」
・テレビ TBSテレビ「ひるおび」
・テレビ 読売テレビ「朝生ワイド す・またん!&ZIP!」
・テレビ TBSテレビ「THE TIME」 など
掲載されるために工夫したこと
メディアの方にすべてを伝えるのではなく、不要な情報はなるべく削ってお伝えすることを意識しています。お願いする表現が強いと宣伝に受け取られ、敬遠されるとも感じたので、あくまで情報を提供する立場として、メディアの方が欲しい情報は何かを考え、伝えるようにしました。
そうすると、メディアの方から質問を多くいただけるようになり、コミュニケーションを重ねることで、良い情報提供ができるようになりました。
また、メールの返信の速さなど、対応するスピードも意識しました。テレビ局の方、制作会社の方、フリーランスのライターの方など、今では伝える相手の立場に合わせた対応ができるよう気をつけています。さらに、掲載後にも工夫したこともあります。広報の結果と経営の戦略を絡めて考えいますが、広報で成果が出てきた今は「ここで止まってしまうともったいないな」と思い、メディアで紹介いただいた後に熱が冷めないうちに販売店の方に情報を伝えることも意識しています。
どのような企業に「ネタもと」を勧めたいか
中小企業の皆さまにお勧めしたいです。最初は費用や、誰がやるのか、などを考えると身構えてしまうと思います。でも、商品やサービスを知ってもらいたいと思ったら「どんなにいいものを作っていても、知ってもらわなければ存在しないのと同じ」と思って情報発信をスタートしてほしいです。
メディアで紹介されることはもちろん大切ですが、その先には「社内の力が強くなる」など、広報活動だから得られる成果があります。ただ、世の中には「パッ」とメディアに出たけど、すぐに終わる商品もいっぱいあると思います。そこは経営戦略と広報戦略を絡めて、紹介されたことをどう活用するか、どう会社の力にするかを同時に取り組まれることが良いと思います。
情報発信だけ、掲載だけという点ではなく、広報活動を営業、採用、社内の組織力向上など、線や面で考えて活動を開始することだと思います。
今後のさらなる目標
創業61年。ハッシュは洗剤のメーカーとして、生活に欠かせない“洗濯”をプロデュースできる会社になっていきたいと思っています。
生活の中にある「洗濯」ですが、実は多くの人がその洗濯の方法を知らない。1人がその洗濯の方法を変えるだけで、使用する水の量も洗剤の量も変わるため、環境問題にも関わってきます。
“食育”という言葉がありますが、洗濯も“洗濯育”として、衣食住と同じくらい生活に欠かせない大切な要素として捉えてほしい。そのためにも開発した商品を通じて「洗濯」に関する情報を発信していきたいと考えています。今後も実演販売やイベントなど、顧客との直接対話を大切に、何を世の中に提供できるかを伝えていきたいと考えています。そして、ハッシュが提供できることをメディアの方に伝えることによって、自社だけでは伝えきれないことを多くの人々に発信してもらい、社会的にも成熟した企業になっていきたいと思っています。
弊社本村代表のセミナーで耳にした、「どんなにいいものを作っていても、知ってもらわなければ存在しないのと同じ」という言葉が5年間、頭に残り続け、不安を感じながらも、やったことがなかった広報活動に踏み切ったという、浅川代表。
最後に語ってくださったように、「メディアで紹介されることはもちろん大切ですが、その先には、社内の力が強くなるなど、広報活動だから得られる成果がある」という言葉通り、広報活動でしか成し得ない企業存続のための基盤づくりがあると思います。
「パッ」とメディアに出て終わるのではなく、「経営戦略と広報戦略を絡めて、紹介されたことをどう活用するか、どう会社の力にするか」がより重要ではないかと思います。
お忙しい中、快く取材にご協力いただきました、株式会社ハッシュ 代表取締役社長 浅川様、本当にありがとうございました。
参考:株式会社ハッシュ 様 社員8名(2023年8月)現在)